#19 「有事」

永瀬清子の世界

05-08-2024 • 3分

永瀬清子さんは、戦時中、軍の言論統制に悩まされていました。多くの詩人が、表現の自由を奪われた時代、永瀬さんは戦争を賛美する詩を他の詩人と同様に「辻詩集」に寄せています。「日本の妻はなげかない。/その時敵弾が彼をつらぬいたときいてさへ/なほその頬にはほほえみがのぼる。」

永瀬さんは戦時中の想いを1988年にRSKが制作した番組で語っています。

「情報局がきて必ず雑誌を見るわけ。表紙はこれではいけないとか、こんな言葉を使ったらいけないとかいちいちいわれるんですよ。だから書く気がしなくなるんです」「世の中がよくなることは望んでいましたけど、親や家を棄ててまでということにはならなかった。親や家を愛していた」

永瀬さんは自由に表現できないことの怖さをこの「有事」という詩に込めたのです。<文・小林章子>