#14「七月」

永瀬清子の世界

01-07-2024 • 3分

永瀬清子さんは、随筆「小鳥と花の意味」に、岡山出身で小鳥博士といわれる川村多実二(かわむらたみじ)さんの言葉を引用して詩を書くことへの決意を表明しています。「『花の美しいのは地球の春をかざるため、小鳥の啼くのも地上の春をかざるため。だからご覧、その相互関係のため人間の存在によって花は一層美しくなりうるのだ』と。私はこれをきいて一つの救いに出あった事を感じた。私たち詩を書く者が希望を失って、何のために書くのだとつぶやく事はもういらない。私が詩を書く事、それはきっと宇宙のためなのだから。私がその川村学説を自分の小さい詩の雑誌に書いた時、若い同人たちの注意はすこしも惹かなかったが、ずっと前に詩を書くのをやめた古い私の友がすぐ手紙をよこした。『私にとってなんと嬉しい報せだったでしょう。あなたは私の為したすべての事は失敗ではなくて必要な事だったとはげまして下さったの。なぜなら私の仕事はすこしも世間の役に立たなかったにしろ、私のせい一杯で地上を飾ることだったのですもの。小鳥の声と同じに』。(中略)力一杯に生き、又苦しんだら、耳に入った僅かの言葉からも必要な喜びや助けが汲みとれるとしたら、或は一篇の詩も同じその助けになるかもしれない」。<文 小林章子>