#9「わが麦」

永瀬清子の世界

27-05-2024 • 3分

永瀬さんは、麦の収穫について書いた詩や随筆なども残しました。たとえば随筆「麦刈日記」(『女詩人の手帖』日本文教出版 1952 年)には、夫や子どもたちと麦を刈りとって荷車で運び、玄関に積み重ねたことを書いています。この詩では、「おまえは黄金色の絃なんだ。/思いのままに鎌で弾く瞬間なんだ。」と、チェロを演奏するかのように、夕暮れに一人で麦を刈っている「私」の姿を表現しており、まるで一枚の絵のようです。永瀬さんは、かつて「宮澤賢治はどう考へても絶えず音楽を胸にかなでてゐた所の詩人である。」(「宮澤賢治の韻律」『宮澤賢治研究』第 1 号 1935 年 4 月)と評していました。農作業を通じていっそう宮澤賢治を慕い、魅力を発見していた永瀬さん。麦刈りを演奏にたとえる永瀬さん自身も、胸に音楽を奏でていた詩人なのだと思います。<文・白根直子>