逃亡のような追跡

森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

06-05-2024 • 2分

逃亡のような追跡

魂がまた逃亡した

残された身体はまず溜息をつき 愛する人に短い手紙を書いてから 沈む夕陽へとハンドルを切る

魂の逃亡は 無理に大人を演じてきた 自分への復讐なのか? 用意されたエピソードを選ぶしかない 未来への警告なのか? それとも夢の荒野を走り続けた 無頼漢(ピカレスク)への憧憬(あこがれ)?

俺はいつしか 見知らぬ風景の中にいる 初めての街には 迷うための道があり 孤独を映すための月が出る 24や60で割り切れない時間が流れ 言葉の通じない北風が吹く

そこにあるのは ざらざらとした違和感 ヤスリのような疎外感

自慢だった人生の垢は擦(こす)り落され 俺はヒトという生き物に戻る ヒトは失っていた情熱を猛烈な速さで思い出し あっと言う間に魂を捕獲する そして不安の中に潜む自由の匂いを嗅ぎ当て 新しい俺がまだこの世界のどこかにいることを教える

生きるということは 生きてゆく自分が 生きてきた自分に 闘いを挑むことだ

魂は逃亡し 身体がそれを追跡する その密かな祭りのような数日を 人は 旅と呼ぶ


1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

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