十月の透明な魚

森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

14-01-2024 • 1分

十月の透明な魚

透明な魚達が跳ねて 刺繍のように波を海に縫い付けると 男は孤独でしかない

風はある時大切な言葉を話すがその時に限って人は耳をふさぎ 禍々しい世界に向けて 悲鳴をあげている

その開けた口から太陽はなだれ込み形のない心にも影を作る 光が強いほど影は濃く不気味で こんな怪物のようなものを抱いて これからも生きていくのかと思うと 男はまたひどく憂鬱だ

幾億ものプランクトンの死骸が 哀しみを知らず西日にきらめく堤防 最後の煙草を挟んだ指にふうっと沖合の船が透けて見える ここにいることを報せておかないと 本当にこのまま消えてしまいそうで

スマホで誰かの名を探すがそれが誰なのかは もう忘れている

透明な魚達が跳ねる十月の たぶんどこにもない海辺の村で


1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

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