72歳のスピードレーサー

森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

25-03-2024 • 1分

72歳のスピードレーサー

午前零時のスピードレーサーは ブロンズ像のように寡黙

海に突き出した断崖のカーヴを 華麗なハンドルさばきで制覇した あの自慢話も最近は影を潜めた 助手席で嬌声をあげていた女たちも もう孫のいる齢だ

We were born to die 死ぬために生まれた 何も悲観的な話ではない 死ぬためには生きなければいけない なら〝どう生きるか〞と訳すべきだろう

だがなぜあんなに急いだのか? スピード・レーサーは パイプの灰を落としながら自問する

あの娘は言った コクトーの絵皿を使うホテルがあるのよ 小イワシのフリットが美味しいの

マントンの小さな港で 深くブレーキを踏み込んでいたら 全く違う人生を見られたのかも知れない

午前二時にレーサーは眠る 昔は速さを競いあった〝時間〞も年老いて 今は柔らかな毛布のよう

心の形に寄り添って 寡黙な彼を包み込んでいる


1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

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