Q:オーナーです。退職を予定している店長が、どうやら競合店に転職する模様。競合に転職するのはダメだと思うのですが、食い止めるにはどうしたらいいでしょうか。
A: 職業選択の自由(日本国憲法第22条)があるので、競合店へ転職することを完全に防ぐことはできないでしょう。ただし、対象者や年数、場所など合理的な範囲で一定の条件をつけた競業禁止の規定を定めることで、有効となることもあります。
こんくり株式会社 https://con-cre.co.jp/
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<解説>
自店舗の店長が仕事を辞める、と思ったら、なんと別チェーンの店舗(以下、「競合店」)に店長待遇で行くことになっていた…という話は、実際にも多々起こります。こうしたときに、競合店への転職を阻止、もしくは制限することができるのか?というのは、多くのオーナーにとって気になるところではないでしょうか。それでは、実際にどう対処していけばよいかを見ていきます。
そもそも、なぜ競合店(競合他社)へ行くことがタブー視されやすいのか、ということですが、理由はいくつかあります。例えば、「店舗(現場)のノウハウを持って行かれることを避けたい」「お客様を持って行かれてしまい、売上や利益が少なくなる」「仮に円満退社ではなかった場合に、自店舗の悪口を言いふらされて、こっちに損害が発生するのが困る」などです。コンビニエンスストアは店舗システムが比較的誰でも動かせるように設計されているので、それほど特別な技術を必要とする仕事ではありませんが、それでも自分たちの努力を他社で生かされることを想像すると、あまり気持ちの良いものではない…と思う方もいらっしゃるようです。では、そうした状況において、実際に競合店への転職を制限することは可能なのでしょうか。
【規則なしだと競合店への転職は阻止できない】
まず、競合店への転職について何も規定を設けていない場合は、仮に自店舗の店長が競合店に転職しても、ダメとは言えないでしょう。これは、日本国憲法の第22条にある通り、職業選択の自由が認められているからです。
職業選択の自由とは、
「何人も、公共の福祉に反しない限り、移住、居住、移転及び職業選択の自由を存する」
という内容ですが、公共の福祉、すなわち違法行為を行うことや他人に迷惑をかけないことを前提として、職業を自由に選ぶことができる、あるいは営業ができるのです。だからこそ、自店舗を辞めるときに何も規定がなければ、人やノウハウなどの流出を食い止めることはできないのです。
【では、規則があればいいのか、というと…】
それでは、「当店ではノウハウがもれると困るから規則を設けよう」と、『一度辞めると一生競合店には転職できない』という規定を設けた場合、有効になるのでしょうか。正解は、NO。これも、職業選択の自由が前提です。この決まりは、それを退職者に対し直接的に制限することに繋がってしまうため、この決まり自体が無効と判断される可能性が高いのです。また、退職時の手続きで、退職者に「私は退職後、競合先に転職しないことを誓います」という文書の入った誓約書にサインをさせたとしても、その部分が無効となることもありえます。この内容は、過去にいくつか裁判で争われた事例もありますが、度の行き過ぎた制限は無効となっています。
【限定的、必要最小限にとどめる】
あらかじめ、就業規則や雇用契約書などで、競合店へ転職することを禁じることは、決してダメなことではありません。ただし、先のように極端な制限は、退職する人の人生を制限してしまうことから無効となってしまいます。では、そのさじ加減はどこまでが許されるのでしょうか。
例えば、1年ないし2年という期間を定める(これも長すぎてはダメ、せいぜい2年まで)、場所を限定する(例:同地域と隣地域の競合店は転職禁止、など)、対象者を限定する(店長職については一定の制限を設ける、など)といった限定的な規定であれば、有効となる場合もあります。争いにならなければ有効、無効かどうかの判断は付きにくいですが、競合店への転職による損害発生防止には一定の効果を発揮するでしょう。また、就業規則や雇用契約書で先述のような規定を定めておいたり、契約書や誓約書に退職者がサインをしたりしたとしても、その規定自体が法律で守られているものではありませんので、あくまでも退職者が退職後にトラブルを起こさないための抑止効果として捉える必要があります。ただ、そうした制限を設ける代わりに、金銭面などで待遇を良くする代償措置を取ることも一つの検討事項となり、退職者が受け入れやすくなることもあります。
以上、競合店への転職制限について見てきましたが、何も制限しないなら、転職されてその後トラブルになっても、自店舗には有利に働かない可能性があります。そのため、一定の規定は大事ですが、本来は皆が職業を自由に選択し、お互いに助け合って行ける業界になっていくことを期待したいところです。