Q:勤務態度がよくないスタッフに注意を繰り返していたのですが、なかなか改善されず、その苛立ちが募ってある時「明日から来なくていい!」とつい言ってしまいました。そうしたら、本当に来なくなってしまいました…。
A:労務管理上ではこの言葉は「理由なき解雇」にあたる危険行為。順序を踏まなければトラブルの元になります。
こんくり株式会社 https://con-cre.co.jp/
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<解説>
「明日から来なくていい」。
かつては漫画や雑誌などで、いわゆる「クビになる瞬間」の言葉としてよく出てきていましたが、現実の日本でこの言葉を発すると、トラブルの元になる可能性があります。これについては、まずなぜトラブルになりうるのか、というところを見ていきましょう。
【法的な問題】
例えば、オーナーや店長から「明日から来なくていい」という言葉を発した瞬間、いくつかの法的な問題が生じます。いわゆる、解雇の問題です。具体的に生じる問題としては、次の3つがあります。
①即時解雇の危険性
「明日から来なくていい」ということは、言われた側は「今日で雇用契約は終わりだ」と捉えてしまいます。ただ、即時解雇はよほどの理由がなければ出来ません。仮にそう捉えたスタッフが解雇はおかしい、と訴えてきた場合、店舗側は一気に不利な立場になってしまいます。過去の裁判例でも、解雇後に従業員側から「理不尽な形で解雇された」などと訴えられ、解雇が無効になったケースが出ています。
②解雇理由が不明瞭
それでは、「よほどの理由」とはどういうことなのでしょうか。
法律的に言うと、「客観的に合理的な理由」が必要で、かつその理由が「社会通念上相当」のものでなければ認められないことになります。これをわかりやすく言い換えると、
1:誰が見ても「解雇は仕方ない」という理由であり
2:オーナーなど経営者が何度注意しても改善されず
3:対応としても、もう解雇以外の方法がない
と判断できる場合でなければ、難しいということです。
つまり、スタッフの勤務態度や能力が不足している、という理由だけで「明日から来なくていい」と言っても、先の3つの条件が満たせないため、解雇理由としては不十分なのです。
③手当や賃金の支払い
スタッフの解雇については、法律上さまざまな制限がかかります。例えば、仕事中などで負傷し、または病気で休むことになった場合、その期間と復帰後30日は解雇することができません。また、産前産後の休業期間とその後30日についても同様です。そして解雇の場合には、スタッフには少なくとも30日前に解雇の通知をしなければならず、万が一その30日を切る場合には、不足日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。仮に「明日から来なくていい」と言った場合には、30日分支払わなければならなくなるのです。もし毎月20万円を支給していた場合は、約20万円の支払をすることになります。(計算方法は図表を参照ください)
しかも、こういう場合に例えば未払いの給料や残業代があると、一緒に請求をされることもあります。その金額も、膨大なものになってしまうケースすらあるのです。一時の感情…ではないかもしれませんが、勢いに任せて「明日から来なくていい!」と口走ってしまうだけで、その瞬間、さまざまなリスクが発生してしまうことは避けられないでしょう。
【法律上以外の問題】
もちろん、法律上の問題だけではありません。例えば、職場のモチベーションや雰囲気に影響したり、「あそこはすぐ首を切る店らしいよ」などと噂を立てられたりすることもあります。そうなると、オーナーや店長は店舗運営の舵取りをしにくくなってしまうでしょう。
【対策は?】
先ほど、解雇はよほどの理由でなければ認められないとお伝えしました。実際に勤務態度が悪い場合、まずはしっかりと話をする機会を持つことが重要です。なぜそうした態度で勤務するのか、また、どこがいけないのか、という点について、しっかりとヒアリングし伝えます。その上で、何か業務の方法を変えれば改善できるのか、複数店経営であれば、別の店舗で勤務することで改善されるのか、などを検討していきます。それでも改善されない場合に、初めて解雇を含めた「辞める」選択肢を準備していきます。こうした順序が必要であり、綿密なコミュニケーションは必須なのです。
もちろん、勤務態度が悪いからといって、解雇しないほうがいい場合もあります。私がある直営店に赴任した直後、勤務態度でバツがついていたスタッフがいました。上司からは「辞めさせろ」と言われましたが、私は1ヶ月の猶予をもらい、そのスタッフと話を重ねました。結果、態度が悪いように見えたのはそれまでの店長との関わり方に原因があって、信頼関係が築けなかっただけだということがわかりました。1ヶ月後にはリーダーシップを発揮して後輩スタッフを導く存在に成長してくれました。
まずは、いきなり解雇を考えるのではなく、腹を割って話をすることから始めてみませんか?
【図表】
法律上(労働契約法上)の解雇を回避する努力とは
解雇予告
解雇予告手当の計算:直前3ヶ月に支払われた給与総額÷3ヶ月の総日数
総額が月20万円の場合
(20万円×3ヶ月)÷(31日+30日+31日)=約6,600円/日
これに、予告で不足している日数をかけたものになります。