Q:店長です。ある日、スタッフが通勤途中に滑ってケガをしてしまいました。どうやらアパートの玄関を出て階段を降りているときに滑ったようです。この場合、労災の扱いになるのでしょうか…。
A:店舗(会社)が労災保険に加入していれば、通勤災害として認められる可能性があります。一軒家の場合は玄関を出るまでにケガをしても通勤災害とはなりません。
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<解説>
今回はスタッフが出勤をしようとして、住んでいるアパートの玄関を出て階段を降りようとしたときにふいに滑って転んでしまった…という、なんとも痛ましい出来事が起こった場合の対処についてです。こういう場合にいわゆる労災保険の給付を受ける対象になるのか、という観点で見ていきます。
【「労災」とは何か?】
まず、本題に入る前に「労災」とは何か?ということについて触れましょう。労災は「労働災害」、あるいは「労働者災害補償保険法」の略語です。簡単に言えば、勤務中にケガをしてしまったときや障害が残ったとき、業務が原因となって病気になった場合などに、国から保険給付があります。一度この連載でも触れましたが、スタッフを一人でも雇用した場合には、事業所として必ず入らなければならない公的保険の一つです。保険料は全額店舗側の負担で、コンビニエンスストアの労災保険料率は3/1000(令和4年5月時点、変更の可能性もあります)。保険料の計算にあたっては、1年間に払ったスタッフ給与の総額がベースとなります。仮に年間で2,000万円の給与を支払った場合、労災保険料は6万円です。
【通勤も労災の対象?】
さて、ここまでの内容を踏まえると、通勤途中のケガは勤務中に発生したものではないので、一見関係なさそうに思えますね。ですが、実は労災保険は通勤途中、あるいは帰宅途中も、条件さえ満たしていれば一定の補償があるのです。冒頭のQのようにアパートに住んでいるスタッフが、玄関を出てアパートの敷地を出るまでの間に滑ってケガをした場合、その敷地は不特定多数の人が往来できる場所であることから、通勤の途中であるとみなされ、通勤災害の対象となります。
【どのような補償があるか】
では、もしアパートの玄関を出て、階段を降りる際に滑って転んでしまった場合、労災保険ではどのような給付が受けられるのでしょうか。
ケガの状況にもよりますが、まず、病院に行った際に労災として診てもらうことで、その診療代が「療養給付」として給付されます(一部負担金200円のみ初回に負担あり)。つまり、スタッフの立場としては診療代を払うことなく治療が受けられるというものです。ただしこれは、労災指定病院で診てもらう必要があります。労災指定病院以外では、いったん診療代を立て替え、その後労災請求することでかかった診療費用が返ってくることになるため、あらかじめ店舗近くの労災指定病院を調べておくといいかもしれません。
その他、例えば足の骨折など、ケガでしばらく仕事を休まなければならない場合には、お休みしている間の生活補償として「休業給付」が出ます。休業給付の額はイメージとして、平均賃金(過去3ヶ月の給料の平均)の6割、プラス休業特別支給金として平均賃金の2割が給付されます。さらに、もし1年6ヶ月を経過してもそのケガが治らない…という場合には、傷病年金、障害が残った場合には障害給付というものも出ます。このように、労災保険の給付は手厚いものになっています。
実際に事故が発生したら、専用の書式を使って病院などを経由して行う場合、直接労働基準監督署に請求を行う場合がありますが、速やかに行うことが大切です。ただし、特に通勤時や帰宅時は、寄り道をしてしまうこともあります。通常の出勤・帰宅ルートから大きく外れて寄り道をしてしまった際にケガをしても、通勤災害として認められない場合もあるので注意が必要です。
【通勤災害とならない場合も…】
ちなみに、これが一軒家に住んでいて、玄関から公道に出るまでの間に同じく滑ってケガをした場合は、通勤災害にならないのです。また、集合住宅でもセキュリティがしっかりしたマンションの場合、マンションの総合入口を出るまでの間にケガをしてしまった場合は、通勤災害にならないこともあります。ともに理由は、自宅の玄関から外に出るまでの間のルートは、誰もが自由に出入りできる状況ではないからです。
【事故を発生させないのが第一】
これまで、通勤災害にかかる労災請求などについて見てきましたが、最も大事なことは、こうした事故を発生させない工夫でしょう。例えば、冬ですと雪の日にはスタッフに気をつけて出勤するように伝えるだけでも意識は高まりやすくなります。業務中の事故もそうですが、普段の働きかけや意識でも十分防げますので、各店で対策を立ててみてください。