098.映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024年)冷酷なレンズ越しに見えた、人間の尊厳

映画のお話

06-10-2024 • 30分

「感想」

俺は人生の中で、いくつか忘れられない出来事がある。いい思い出も、悪い思い出も、どれもが胸の中で沈殿して、時々ふと浮かび上がってくるんだ。そんなある日、サンボマスターとクロマニヨンズが対バンでライブをやるって情報が俺の耳に入った。これを聞いて、心の奥底に眠っていた何かが目覚めた。


正直に言えば、俺は熱心なファンと比べればどちらも熱狂的なファンではない。尊敬はしているが、熱狂とまではいかない。それでも、この組み合わせには特別な何かがあったんだ。ファンなら誰もが分かると思う。これが実現するってことがどれだけのインパクトを持つかってことを。


だから俺は、すぐに申し込んだ。9月に告知が出て、手続きを済ませた。でも、心の中では半ば諦めていたんだ。「そんなチケット、簡単に取れるわけがない」。そんな気持ちを抱えながらも、期待だけは膨らんでいく。まるで、つかめそうでつかめない夢を追いかけるみたいなもんだ。


ところが、運命の女神は俺に微笑んだんだ。10月のある日、俺の手元に当選通知が届いた。「ああ、これだ」って思ったね。最後に、俺にいいことが起きるってやつだ。年の終わりが近づいてきたこの時期に、ようやく俺にも光が差し込んだんだって思った。


でもな、世の中はそう甘くない。俺はその一瞬の輝きを、見事に台無しにしたんだ。俺自身の不手際でな。支払い方法をクレジットカードじゃなくて、コンビニ決済にしちまったんだ。それに気づいたのは、もう後の祭りだった。支払い期限を見逃して、俺はチケットを手放す羽目になった。


その瞬間の絶望感といったら、言葉じゃ表現できない。まさに天国から地獄への急降下だ。俺の中で「今年最後の大勝負」が、そんなつまらないミスで終わったんだ。もう一度自分を責めたよ。自分がこんなにも愚かだとは思わなかった。


二次募集があるって聞いたとき、藁にもすがる思いで再度申し込んだ。だが、当然のごとく、その希望もすぐに打ち砕かれた。俺がキャンセルした分は、すぐに誰かが手に入れたんだろう。俺のミスを、誰かが笑いながら受け取ったと思うと立ち直れない。


その後、SUPER BEAVERのアコースティックライブにも応募した。だが、それも外れた。でも、その外れは別にどうでもよかったんだ。あくまでクロマニヨンズとサンボマスターのライブを逃したことが、俺の心に残る唯一の痛みだった。それが胸に突き刺さって離れない。人生の中で、こんなにも悔しい瞬間があっただろうか。


結局、教訓は一つ。「慣れないことはするもんじゃない」。コンビニ決済なんて、普段しないことをして、俺は自らを破滅に追いやったんだ。これからはそんなリスクを冒すのはやめよう。自分の道をしっかり歩む、それが最善なんだってことを俺は学んだ。


そんな自嘲の気持ちを抱えつつ、俺は何気なく映画を観に行くことにした。「シビル・ウォー アメリカ最後の日」という映画が上映されるってことで、何か心の中を埋めるものを求めて足を運んだ。映画というのは、時に俺たちの現実から目を背けさせてくれる存在だ。今の俺には、それが必要だったのかもしれない。


シビルウォーは、アメリカの内戦を描いた作品だ。これを見たとき、俺は何か大きな衝撃を受けた。映画が進むにつれて、胸の中に重たい感情がじわじわと湧き上がってくるのが分かったんだ。ロードムービーとしての構成は見事で、登場人物たちがさまざまな出来事に遭遇しながら旅を続ける。そこでの成長や気づき、そして彼らの人間的な弱さが浮き彫りになる。


主人公たちはジャーナリストたちで、その中には戦場カメラマンとしてベテランの女性と、その彼女に憧れる若い少女がいた。この二人の関係が物語の核を成している。戦争の中で、彼女たちはカメラのシャッターを切り続ける。しかし、戦場の残酷さは容赦なく二人に襲いかかる。


ある場面で、ベテランのカメラマンが若い少女に向かってこう言うんだ。「私は、あなたが死にそうになってもカメラを回し続ける。感情に左右されるわけにはいかない」って。冷たく、現実的な言葉だった。戦場では、そうでなければ生き残れないという厳しさがにじみ出ていた。


だが、物語が進むにつれて、そのベテランカメラマンの心にも変化が訪れる。最後のシーン、彼女は若い少女が死にかけている状況で、カメラを手にすることをやめ、彼女を救うんだ。その瞬間、彼女は「人」としての感情を取り戻したんだと思う。


このシーンを見たとき、俺は何か胸に熱いものを感じた。人間として、何を選ぶべきか。カメラを持ち続けるか、それとも目の前の命を救うか。ベテランのカメラマンが最後に選んだのは、後者だった。彼女は、戦場での冷徹な自分に終止符を打ち、若い世代にバトンを渡す決断をしたんだ。


シビルウォーは、ただの戦争映画じゃなかった。内戦という状況下で、人々がどのように変わり、何を選び取っていくのかを描いた、非常に深い作品だった。戦争の中での不条理や人間の弱さ、それでもなお希望を持つことの大切さが、この映画には詰まっていたんだ。


映画館を出ると、冷たい風が頬を撫でた。外の世界は静かで、戦争とは無縁の平和が広がっていた。だが、ふと考えたんだ。この世界でも、いつ何が起こるかなんて分からない。イスラエルとイランの対立が激化しているニュースが流れているが、今はそれが遠い国の話に思える。だが、それもいつか俺たちの現実になるかもしれない。


俺はそんなことを考えながら、ふとタバコに火をつけた。映画の余韻が残る中、シビルウォーで描かれた世界と現実の世界が交錯するような感覚に襲われた。戦争というのは、誰か他人事のように感じるかもしれないが、実際にはすぐそばにあるんだ。そんな現実を目の当たりにしたような気がした。


俺はこれからも、自分の人生を歩んでいくだろう。クロマニヨンズとサンボマスターのライブには行けなかったが、それでも俺は生きていく。人間は、失敗し、苦しみ、それでもなお歩き続ける存在だ。それが俺の教訓だ。そして、いつかまた同じようなチャンスが巡ってきたとき、今度は絶対に失敗しないようにしようって、心の中で静かに誓った。


映画の中のカメラマンたちが、自分たちの信念に従って行動したように、俺も自分の信念を持って生きていくつもりだ。それが、生きるってことだからな。